私をもう一度フェリシアに連れてって


         
 全宇宙は女王によって、ごく小さな星一つ一つに至るまでくまなく導かれている。また各守護聖はそれを一分の隙も無いほどしっかりと補佐している。しかし星の状態を知るには、やはり現地に赴かねばならぬ時もある。人々の活気、ため息、街や村の空気といった、ごく微妙かつ主観的な情報でも、生きた情報はかけがえがない。

「ずいぶんと発展しましたねぇ」
 ルヴァは高層ビルを見上げながら言う。
「昔はのどかな田舎町でしたのに。そういえばあれから何百年とたっているのですねぇ」
 視察対象となる星は、二種類の基準によって選ばれる。一つは、明らかに問題がある星。そしてもう一つは、ランダムに選出される星。
 ルヴァが降り立ったのは後者の星。豊かな星の、豊かな大陸。大陸の名はフェリシア。
「でも、古い町並みもしっかりと保全されているあたり、文化の高さが伺えますねぇ」
 ルヴァは、かすかな記憶を頼りに、腰を落ち着けるべく宿場街へと向かう。

 喧噪の中、ルヴァはカウンター席の隅に座る。
「とりあえず定食を。あと、部屋は空いてますか?」
 一階は飲食店。二階三階は宿屋。裏路地の、石造りの古風な建物。ちょうど昼時で、店の中は労働者で溢れかえっている。奧のテーブルには酔っぱらいが飲んだくれたりしているが、店構えは割と小綺麗だった。
「おや、旅のお方だね。今日は焼き魚定食だよ。部屋は二階?それとも三階?」
 愛想良く答えた中年女性は忙しそうに料理を運んでいる。厨房の奧では、頑固そうなオヤジが巨大な魚をさばいている。
「急ぎませんので、とりあえず飲み物を下さい」
 すぐにビールジョッキが目の前に置かれた。

 水で良かったのに、と思いながらも、人の良いルヴァは断り切れずに、ちょっとずつ飲みながら店内を観察する。薄暗い店内だったが、目が慣れてくると壁に多数の絵画が飾られているのが目に付いた。こんな裏町の宿屋にもこれくらいの絵があるとは豊かな星ですね、リュミエールが来れば喜んだかもしれません、などと考えながら一つ一つを物色していると、ある物が目に飛び込んできた。

 女王試験も終盤にさしかかった昼下がり、ルヴァはいつものように本を読みながらひなたぼっこをしていた。
「ルヴァ様、何を読んでいらっしゃるのですか?」
 親しげにのぞきこむのは、女王候補ロザリア。
「これは、恥ずかしながら私が書いた本なのです」
 ふふふ、と女王候補は笑う。彼女は本当に良い笑顔をするようになった、とルヴァは思う。この試験は人を変えた。女王候補も、守護聖も。
「書かれた内容もお忘れになったんですか?」
「いえ、よくこれだけのものを書いたなーと、自画自賛しているんですよ」
 おそらく、二人の女王候補のうちどちらが女王に選ばれたとしても、もはや誰も不服はないであろう。そしてそのどちらも、かつてないほどの素晴らしい女王になるであろう。
「あの、差し支えなければ、私もその本を読んでみたいのですが…」
 ルヴァの役割はもうほとんどない。あとは、ただ穏やかに試験の終了を待つのみだ。
「恥ずかしながら、もう絶版になった本なんですよね。でも、あと三冊は手元にありますので、差し上げます」

「おや、その文字が読めるのかい?」
 目の前に出された料理と、自分に向けられた言葉とで、ルヴァは現実へと引き戻された。
「あの、これは何なんですか?」
 それは額に入った一枚の紙。ずいぶんと古いものらしく、多少変色してはいるが、上質の紙とインク、そして王立美術館でも採用している特殊保護機能付き額縁によって本来の姿を保ち続けている、一枚の手紙だった。
「それはよぉ」
 奧にいる酔っぱらいが声を上げる。
「天使様の手紙なんじゃ〜」
 別の酔っぱらいも叫ぶ。
「昔々のご先祖様が、星に乗って空を飛ぶ天使様を見つけて、そいつが落としたんだとよ」
「うるさいねぇ。うちの家宝にケチ付けると、もう酒飲まさないよ!」
 酔っぱらい達とおかみさんのケンカが始まる。

「あの、ルヴァ様…」
「おや、どうしたのですか。そんなに慌てて」
 試験もあと幾日かで終わりというある日、ルヴァの執務室にロザリアが息せき切らして駆け込んできた。
「あの、これくらいの封筒を見ませんでしたか?」
 両手で何度も四角を形作る。
「さあ、見ませんでしたけど。…ところで、あの本はどうでしたか?」
「はい。とても楽しく読ませて頂きました。ルヴァ様って、言語学もお得意なんですね」
「ええ。あの本で説明している文字は、宇宙でもう私一人しか読めなくなってしまったんですけどね」
「あ、そうだったんですか。ちょっと安心。私ったら、手紙を書けるくらいまで覚えて…あの、失礼します!」
 顔を真っ赤にしながら出ていくロザリアと、不思議そうに見送るルヴァ。

 手紙を読みながらルヴァは物思いにふける。
 私たちにはまだすべきことがあります。そしてそれはいつまで続くのか分かりません。ですが、もし私たちが役目を終えたなら、その時はもう一度ここに、二人で来ましょう…
 酔っぱらいとおかみさんのケンカはまだまだ続きそうだ。
                                          

あわわわ…
なんかラブラブな話です。
正直ゆってこういうのは苦手です。
こそばがゆくなります。

でも、ロザリアがなんだかかわいいです。


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