私を薔薇の館に連れてって



 それはロザリアが女王候補だったころのお話。


「そろそろ先輩方は卒業ね」
 昼下がりのお茶の時間、ロザリアはお気に入りの紅茶を飲みながら、学生時代のアルバムを眺めていた。飛空都市に来てからすでに半年。過ぎ去りし日を懐かしむには十分な頃合いだが、アルバムを眺める目はどこか寂しそうな雰囲気を漂わせている。
「ロザリア様、おかわりはいかがですか?」
 そんなロザリアを、傍らでばあやが心配そうに見つめている。
「いえ、もう十分」
 すでに冷め切ったティーカップの中身を勢いよく飲み干すと、ロザリアは午後の育成に向かうために立ち上がった。

「ようこそいらっしゃいました」
 リュミエールは優しく微笑む。
「育成を、少し、お願いします」
「はい。順調ですね。がんばってください」
 リュミエールはなおも微笑む。けれどその笑顔にはどこかしら、憐憫の情が感じられた。
「はい、それでは失礼します」
 ロザリアはそれでもキリリと返事をし、退室する。

「ハァ…」
 夕暮れ時の公園には誰もいない。先ほどの引き締まった表情もどことやら、ロザリアは力無くうなだれてため息を付く。
「結局私は女王候補。そして彼らは守護聖。ただそれだけの関係ね」
 このごろ独り言が多くなる彼女であった。
「それにしても…」
 守護聖の自分への対応は、日毎に事務的になっていく。しかしそれは仕方が無いのかもしれない。ここまであっさりと勝負が決まってしまっては。
 はっきり言ってこのゲーム、もといこの試験は、ただデートさえしていればなんとかなってしまうものである。計算された育成よりも、好感度を上げに上げて、守護聖の勝手な贈り物に期待した方が得策なのである。
「あの子は最初からそうだったわ」
 最初こそロザリアの理知的な育成は功を奏した。しかしアンジェリークは持ち前の男好きな性格、もとい持ち前の愛くるしさとけなげさを駆使して、守護聖の心を着々とゲットしていった。ひたむきなラブラブフラッシュ、用意周到なデートが彼女の努力だった。
 一方ロザリアも、美しさ、と言う点ではライバルに勝っていた。しかし彼女の持つ気高さは、少なくとも多くの男性にはあまりヒットしないようだった。
 もちろんロザリアも、ライバルと同じように守護聖とデートをしてみた。しかしどんなに優秀な教育を受けてきたとしても所詮は17才の乙女、心の底を相手に見抜かれないはずはなかった。
 それは一つの想い。アルバムの中の最後の写真。寄り添い会う二人の女性。
「…お姉さま…」
 ロザリアは空を見上げ、一人つぶやく。
「こんなに長く、遠く離れてしまって、やっぱり私はお姉さま無しでは生きていけません…」
(↑これだから女子校ってやつは…)


「あ、やっと見つけた! ロザリア、こっちよ!」
 しばらく後の、桜の咲くある日のこと、ロザリアは後ろから声を掛けられた。そう、それは、忘れもしないあの人の声。
「お姉さま!」
 そのまま勢いよくその人の元まで走りだす。
「あらあら、はしたない。ねぇ、元気だった?」
「…お姉さま、会いたかった…」
 ロザリアの目から涙がこぼれ落ちる。涙をぬぐう、自分のものではない指の感覚。
「ロザリアが女王候補になったから、大学を蹴って飛空都市に就職したのよ」
「お姉さま、嬉しい…」
「ねえ、ところで…」
 その人の目がキラーンと光る。
「守護聖様方はどこ? 女王候補だから親しいんでしょ? ねぇ、早く紹介してよ!」
「はぁ?」
 ロザリアは固まる。
「よぉ、嬢ちゃん。その美しい女性とお知り合いかい?」
 折しもそこに炎の守護聖オスカー登場。
「きゃー、オスカー様ーっ! 私、あなたのファンなんですぅ!」
 ロザリアは、バナナで釘が打てるくらいに固まるだけだった。


 それは女王候補ロザリアが、奇跡的な逆転勝利をする、ほんの少し前のお話。    


アンジェリークでマリみてワールドをやってしまいました。
個人的にはとても気に入っているのですが、
やっぱり男性キャラが出てこそのアンジェだと思います…


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